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「ゆうくん、何言ってんの?」
夏越の目が笑っていない。そして手首を強く掴まれる。
「え?」
ギリギリ、と憎いほどに力強く掴まれ俺は夏越の手を外そうとした。だが、夏越の思いが強いのか手を離そうとしない。
「最初に好きになったのは、ゆうくんの方なのに……別れて欲しいって言ったの、ゆうくんなのに……」
ギリッと掴まれた手首が痛い。血が止まりそうなほど、夏越が握りしめる力が強くなってくる。
「それ……は」
言葉を捻り出そうとしても、これが精一杯だった。額から吹き出る汗が止まらない。だって夏越に何を言っても聞いてもらえなさそうだったから。
「だから、迎えに来たんだよ? あの日の約束を果たすためにね」
夏越の笑顔が怖かった。大学生にもなって中学のことを掘り返してくるなんて、ありえない。俺の中で夏越は過去の存在だった。
「や、約束? そんなことした覚えがないんだけど……」
だから、夏越と交わした約束なんて全く覚えていない。
「今はいいよ、時間はたっぷりあるんだし。これから一緒に少しずつ思い出していこうね」
じゃあ役所に行こうか、と今度は恋人繋ぎをされる。少しでも手を離す素振りを見せようとすれば、指の関節を砕かれそうだった。
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