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小さな女の子みやは、高梨さん家にずっと前から住んでいるざしきわらし。
高梨さんとその奥さんが仕事に行ったあと、ペットのメス犬ラッシュの鎖をこっそり外して、一人と一匹で散歩にでかけます。みやはオバケでとっても軽いので、お馬にのるように町を歩くのです。
「今日は天気がよいのう。ラッシュどの」
「ホントダネ 。チョットアツイケド」
お気に入りの公園にきて、上機嫌でそんなお話をしていますが、実はまわりの人には見えません。なぜなら、みやはオバケだから。
だからみんな大きな首輪付きのゴールデンリトリバーが、ただの一匹で勝手に走り回っているように見えてしまいます。ときどき保健所のおじさんにつかまりそうにもなるのです。
でも、そんな時のラッシュの逃げ足は早い早い。すかさずみやは、ラッシュの首にしっかり腕を回して、体をぴったりとふわふわの毛の中に埋まりながら抱きつくのです。
今日もたぶん、どこかの大人が通報したのでしょう。なんと、すべり台の後ろからみやたちをジッと見つめているおじさんがいるではありませんか。
「ラッシュどの!逃げろ!」
「ワカッタ!」
「ああ、くそっ!待てえ!」
作業服のおじさん、あわてて飛び出して来たけれどもう遅い。あっと言う間に豆粒だ。一人と一匹のコンビネーションは大したものなのです。
「また行く場所を変えねばのう」
「ソウダネ。アノコウエンハ、モウヤバイヨ」
「そうじゃのう…」
走って走って、家の反対側まで来てひと息ついたみやの頭に、『!』マークの点滅が。いや、走ったのはラッシュですけどね。
「そうじゃそうじゃ!そうじゃった。邪魔が入らない良い道を知っておるぞ。そこを行けばいいではないか。電車などというものに乗らずとも、その道なら音に聞く動物園とやらにもわれらでいけるぞ」
「ホントナノ?ソレハナンテイウミチ?」
「うぬ。高速霊道というての」
「コウソク?レイドウ?」
「そうじゃ。ラッシュどの、前を見よ。墓地があるであろう」
確かに住宅の裏手だというのに墓地があります。だからこの辺りは、家賃が安そうなアパートばかりなのかな。
「アルネ。ソレガナニカ?」
「中程に白く光る道が見えぬか?」
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