0人が本棚に入れています
本棚に追加
「そいでな。いざ、のらになっちまうとよ。なんだかむしょうにおめえにあいたくなったんだよ。おぼえていることせいりして、ばすのいきさきなんかもみて、まよいまよいあるいてたんだ。そっからよ。そしたらな…」
「ワタシノコトオボエテテクレタンダネ。ウレシイ♪ソレデアルイテイタラ?」
「でっかいとらっくが、すんげえすぴーどではしってきてな。あっというまにひっかけられて、このざまさ」
「エッ…!」
このざまと言われてお嬢様は初めて気づいたようですが、リョウくんは体がところどころ透き通っています。無論みやは知っていましたが。
「みちのとちゅうだったし、なにがなんだかあたまがぐるぐるしてたんだ。すぐにひきとりのくるまがきて、のせられて、ほけんしょのやきばでおれ、やかれたらしいんだが、そのあたりのきおくがねぇんだよ」
「ソ、ソレジャア、アナタ…」
感極まったのかリョウくん、目を見開いて震えている彼女をしばし見つめていましたが、ため息ひとつ。静かにまた、語り始めました。
「それでもな。おれ、おめえのことあきらめきれなくてよ。そうさ、ゆうれいになってもしばらくそこらをうろうろしてたんだ。
でも、だんだんこのままじゃいけないとおもうようになってよ。
やっとみとめたんだ。おらあしんだんだってよ」
「ソ ソンナ…」
天に召される事もなく、こうして現世に未練を残して、所縁のある土地から離れない事自体、立派な地縛霊と言えるのですが、その立場を当の本人も分かっていないようです。
そして元友か、恋人か、突然に悲しい姿を見せつけられて、大柄なお嬢、ラッシュは言葉もありません。涙は止めどなく流れ落ちたのでありました。
皆さんは知らないでしょうが、こんな時、人も犬も変わりはないのです。
ただ常識と言うものが、見える目を曇らせているだけのことなんです。
みやも二匹に近ずいてはいましたが、その話に聞きいるにつれ、ますますその場から動けなかったのでありました。
うずくまるラッシュの背中に前足を当て、まるでつかまり立ちの様なリョウくん。震える肩のまま静かに慟哭するラッシュ。少し距離をおいて立ちすくむみや。
最初のコメントを投稿しよう!