第1章

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第4話 「今日は恵ちゃん遅いね」 「寝ぐせ直しに時間がかかっているんじゃない?」 大樹が言う。 「それはない。いつも、そのままでくるじゃん」 義雄が呟く。 「さて、やるか」 僕が席を立つと、大樹も義雄も自分の研究に取りかかり始めた。 昨日、有田先生がバラの野生種の葉のサンプルを取って来てくれたので、今日は電気泳動の実験をする。 電気泳動のゲル作り、酵素の抽出、電気泳動。 アイソザイムという、酵素多型の研究だ。 簡単にいうと、酵素とは、同じ働きをしていても、そのタンパク質組成が異なる場合がある。パーオキシターゼという植物体内に生じる過酸化水素を分解する酵素がターゲット。 酵素を抽出して、ポリアクリルアミドゲルに乗せ電気泳動し、その後染色すると、その組成の分子量の違いから、ゲル上に縞模様のようなバンドが得られる。その縞の位置、太さ、数の情報を得る。 バラの野生種の産地や種類で、共通なもの、また異なるバンドなどの情報が得られる。 それらを互いに比較し、統計解析をすることで、野生種の近縁度や遺伝子変異の多少が確認される。 「有田先生、今日泳動、流します」 「佐藤くん、ちょっといいかな」 「何でしょう?」     
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