第1章

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「おはよう。恵ちゃん」 「おはよう。正くん」 「何? その荷物」 「お楽しみよ。お・た・の・し・み」 研究室に戻ると、大樹も義雄もお茶を飲んでいた。 「何、何。恵ちゃん、それ何?」 大樹が早口で話す。 「ちょっと待っててね」 恵ちゃんは、荷を机に置き、紐を解いて蓋をゆっくり開ける。 「じゃじゃ〜ん」 「すごいすごい。ホールケーキじゃん。イチゴの」 「今日は俺の誕生日……、ということは……」 「そうよ、大樹くんへのバースデーケーキ。手作りよ」 「やった! やった! すごい! 嬉しい」 誰だ、さっきまで恵ちゃんは寝ぐせ直しで遅れてくると言ったヤツ。 そういえば、さっき大樹を好きな、生物環境工学研究室の歩ちゃんもチョコレートを持って来ていたな……。 僕も、義雄も複雑な心境。歩ちゃんで手を打てばいいのに。ライバルが減るから……。 「お昼前だけど、今食べる? それとも、後にする?」 「今、今! 今食べる!」 大樹がはしゃぐ。 「待っててね」 恵ちゃんが、ナイフ、フォーク、取り皿を準備する。 「有田先生も呼ぼうかしら?」 「うん。そうしよう」 「しかし、上手だね。恵ちゃん」 僕がそう言うと、 「育ちが違うのよ」 「そういうことは、自分じゃ言わない」 みんなで笑う。     
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