第1章

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「カーネーションは八重咲きだから、意外に花粉が出にくいんだ」 義雄が話す。 「そう、カーネーションもバラも菊も、そのほかも八重咲きと言うのはほとんどが一重咲きの突然変異なんだ」 「八重における、内側の花びらは、雄しべや雌しべにあたり、それらが花弁化したのが八重咲き」 「一般的に花粉は取りにくくなるよ」 「カーネーションの柱頭って、蝶々の触角みたいですね」 恵ちゃんが両手の人差し指を頭の上に立て、蝶の触角の真似をする。 「それ、鬼だよ」 大樹がからかう。 恵ちゃん。クリクリとした眼で興味深げに膨らんだ子房を見つめている。 いつもながらの不思議顔。可愛い。 「そう、その二本の触角のような柱頭の先が少し丸まり始める頃が交配の適期なんだ。そこに花粉をつける」 「おじさん、どれくらいの交配をするんですか、ここで」 「交配数は数百くらいかな」 「数百も!」 「そうだよ」 「一つの子房に少ないものは数粒、多いものは3ー40粒入っているものもある。年間1万種子くらいを目安に採種しているんだ」 「おじさん、ラベルの数字の意味は」 おじさんはニヤニヤする。 「ただの通し番号だよ。もちろん、その番号で雌、雄の両親がわかる」 大樹が尋ねる。 「育種記録は取ってあるんですか?」
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