第1章

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第8話 「取ってきたわよ」 ビニールハウスのすべての通路をおじさんとゆっくり歩きながら、恵ちゃんは黄色とオレンジ色のカーネーションの花を摘んで、ビニール袋に入れてきた。 それぞれの咢に、マジックで素材番号が書いてある。 恵ちゃんはワンウォッシュデニムのエプロンのポケットに、綺麗な色模様のカーネーションを破れんばかりに入れてきた。 「恵ちゃん。黄色とオレンジだけって言ったでしょ?」 僕が話すと、 「だって、綺麗なんだもん。おじさんが持って帰っていいよって言ったの」 恵ちゃんが花で膨らんだお腹を、ポンポン叩く。 「まるで妊婦さんだね」 僕が言うと、 「多分、俺の子だと思う」 大樹は、サラサラとそういう言葉が出てくる。 「女の子です」 恵ちゃんも冗談に乗る。 「恵ちゃん、写真を撮ってあげる。ポケットから顔を出している花姿の恵ちゃん。とても可愛いよ」 僕はスマホで写真を撮る。 「俺にもくれ、正」 「俺も」 大樹と義雄にLINEで送る。 「個人情報保護法違反よ、正くん」 「使用上の注意をよく読んでね」 恵ちゃんが、素敵に微笑む。 おじさんの選花小屋のテーブルに、恵ちゃんが取ってきた黄色花とオレンジ花を並べる。 「さて、並んだね」     
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