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「恵ちゃん。カーネーションの花色は複雑だよ。もう還暦を迎える専門家のおじさんでさえ、よく分からないと話している」
恵ちゃんは話す。
「大樹くんは楽天的で乗り気なし。正くんは複雑であろうということが、ちょっぴり分かっている」
「義雄くんはどう思う?」
「僕は細胞とか遺伝子の分野だから、今はなんとも言えないね」
「やろうよ。カーネーション、オレンジ色の秘密探し」
恵ちゃんのキラキラとした瞳。
大樹は言う。
「無理だよ。皆自分たちの実験、卒業論文であたふたしているんだから」
「僕は電子顕微鏡で、バラの花粉の表面形態を見て分類する研究があるし、正は、アイソザイム? だっけ? まあ、いわゆる酵素多型によるバラ属の分類」
「義雄は、ナデシコ科植物の細胞融合、プロトプラストに関する研究」
「これで皆手一杯なんだよ」
「でもみんな就職先は内定したでしょ」
「私だって、胡蝶蘭の光合成に関する研究があるよ」
「恵ちゃんのは一番楽。胡蝶蘭を密閉したチャンバーの容器に入れて、光合成測定装置を設置するだけ。あと、胡蝶さんの葉の厚さを測るだけでしょ?」
大樹が話す。
「私のために一肌脱ぐ人だーれだ?」
今度は、恵ちゃんの問いに三人とも手を上げない。
「私、知りたいの。このオレンジ、とても綺麗だから」
恵ちゃんは拗ねる。
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