第5章

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「ゴリゴリ、ゴリゴリ」 乳鉢に入れた石英砂と乳棒の擦れる音。 バラの葉からの酵素抽出。単純作業だが、コツがある。 数mm以上の塊は乳鉢では潰れないので、バラの葉を鉄板上に置き、金づちで1ー2mm以下に砕いておく。 乳鉢に試料を入れ、リン酸バッファーを小さじ半分程度加えて抽出液が飛び散らないように乳棒で磨り潰す。1サンプル、約3ー5分。手際よく。 意外に簡単そうで、慣れが必要。 約1時間半、この低温室。夏場に寒い不思議な感覚。 「ただしーっ」 大樹の声だ。弱々しい。 低温室の二重扉を開けて入って来た。 「どうした?」 「いや、教授が日光にすぐにでも行きたいらしくて……」 「正抜きでいいから、来週にでもと……」 「ちょっと待って。後30分後。研究室でな」 「分かった」 ーーーーー 「で、どうする?」 「僕抜きで行きなよ。水曜日ならオケの連中が行く予定をもう組んでいる」 「昼食の中華料理屋も、20数人入れる席を抑えてあるみたい」 「教授は歩く植物図鑑以上だよ。世界の植物を知っている人だ」 「大樹にもいいし、オケの連中になんか、もってこいの勉強の場になる」 「でも気を使うだろ? 教授だよ。しかも、イノシシのような……」     
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