第5章

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「うん。一晩どころか2、3時間で抜け出していく子もいるよ」 「あの製造ラインのバター臭、機械の音」 「肉まんライン、あんまんラインとかでは、布団のようなとんでもなく重い生地を機械に移し替え、30Lくらいもあるかの袋に入った具をその機械の上から入れる」 「正直、その袋の具を見ただけで、しばらく肉まん食べたくなくなるよ。なんでも多量は気持ちいいもんじゃない」 「フランスパンラインもきつい。成形から焼き上げまで。覚えるまでが大変」 「へえー、不思議ね。正くんパン作ってたんだ」 「一晩1万。魅力的なバイトだよ」 「でも、一日やったら3日体の疲れが抜けない。それが問題だったね」 「よく頑張ったね」 恵ちゃんが褒めてくれる。 「能の舞台設営とかは?」 「一本、100〜150kgくらいの鉄骨を、二人ペアで城の階段を登り運んだりする」 「城のすぐ横で宴があったから」 「城の近くには、重機は入れない。だから階段で手運びだったんだ」 「年に何回か催しものがあった。そう、夜中の薪能が美しかったかな」 「真夏の夜の薪能」 「僕らバイトの人には、タダで見せてくれた。仕事には厳しく、そのあと優しい現場の人たち」 「その時、肉体労働の男ってカッコイイと思った」 「あら、正くんも筋肉質でいい体よ」 「……」     
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