第1章

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第2話 「おはよう、正君。どんな感じになってる?」 「綺麗なオレンジ色になってるよ」 僕は朝一番で、抽出液をろ過し、試験管に入れキャップを閉めて研究室の試験管立てにおいた。 ろ過など一連の作業は、実験室の排気口のあるドラフトと言われる場所で手袋、マスク着用で行う。有機溶剤の使用にはドラフト内作業と、有機溶剤の分別廃液管理が重要である。 僕はこの有機溶剤作業主任者の資格を持っている。卒業論文の酵素研究で、この資格の取得が必要だった。 「ほんとだ!」 恵ちゃんが窓の明かりに照らし、試験管内の溶液を見つめる。 「すごく綺麗ね。匂いもオレンジっぽいのかしら?」 「恵ちゃん。そういう見当違いな話、どの脳みそから出てくるの?」 「匂いはメターノール、だけど嗅いじゃダメ。メターノールは有機溶媒だよ」 「冗談よ」 「そう、少し調べてきたら、カーネーションのオレンジは、カルコンという黄色い色素と赤いペラルゴニジン3グルコシドというアントシアニン色素が液胞内に同居しているんだって」 「僕も調べたよ。恵ちゃんの調べてきたことに同じ」 「やっぱり、何も手を出すことないね。解っちゃったね、恵ちゃん。カーネーションのオレンジ色の秘密」     
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