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「くわぁあー……」
ミンミンとうるさい蝉の声もそろそろ鳴りを潜めてもいいんじゃないだろうかと思うこの頃、大あくびをかきながら、珍しくレジに居座る龍真の姿が見えた。今日、八月一日はいないようで一人のんびり過ごしている。
しばらくホケホケと過ごしていれば、バタバタと数人分の足音が響いてきた。
「キンキン、ちゃんと働いてるかー?」「キンキンくじ引かせて!」「はっちーいないからってサボってない?」「キンキンちゃんとレジできるの?」
「うるさいクソガキ共。俺は昨日働いて疲れて眠いの。あー、お布団が恋しいねぅー」
賑やかになり始めた店内に、寝不足の頭は悲鳴をあげている。龍真はレジに突っ伏したが、容赦なく子供達はレジの催促をする。
「昨日何してたの?おれらが来た時お使い終わった時だし、その後も寝てた気がするけど」
「そりゃあれよ、いい尻を求めて夜の街を」
「お巡りさんこっちです」
「バカ、おま、お巡りさん違いますよ!」
ギャイギャイと子供に混じって騒ぐ。そんな当たり前の日常がそこにあった。
ふと、ユーキが思い出したように告げる。
「そういえばさー、キンキンしってる?あの体育館前のトイレ、取り壊されるんだって」
「ふーん……なんでまた」
「なんかねー、もう誰も使わないし勿体ないからだって」
これでもう怖くないよと安心している少年。龍真はこれで完全に無駄になったと口の中で呟いた。
───その男、水槽『完』
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