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ジリジリと暑い日差しが降り注ぐ。それはもう夏も真っ盛りを迎えたということを告げていた。
町外れにある駄菓子屋「葉月」には、夏休みという事で昼間からたくさんの子供達が冷たいアイス(それと漫画やお菓子)を求めひっきりなしにやってくる。しかし、現在の時刻は十一時。昼飯の時間が近付けば喧騒はだんだんとなりを潜めて、店の中には蝉の声と風鈴の音だけが響いていた。
「ふぅ、歳はとりたくないものだね。もう子供達の相手をするだけで大変だよ」
艶やかな黒髪を揺らした少年が、自分の肩をトントンと叩く。黒いワイシャツをキッチリと着込んだその顔には、言葉とは裏腹に汗一つかいていない。
「そんなこと言ってぇ、八月一日さんほとんど疲れてないくせに」
八月一日、と呼ばれた少年は店の奥へと目を向ける。どんなに忙しくても店の奥の畳にあるのスペースで、手伝うでもなく寝腐っていた青年はケラケラと笑いながら寝返りをうってこちらを見た。
「金魚、君仕事をしないで給料を貰おうとする気かい?レジ打ちから何から何も手伝いもせず狸寝入り決め込んだだろう」
「いやぁ、だって俺の業務に子守りなんてないしぃ? 」
「……金魚龍真」
「ごめん悪かったって、次は手伝うからそろばんの角を向けるのだけはやめて」
慌てて上半身を起こして身を正す龍真に、八月一日は浅く息をつく。無造作に伸ばした前髪からチラつく猫の目は、愉快そうに細められ口先だけの謝罪を台無しにしていた。
「全く、君はいつも昼間寝て、夜起きて徘徊して朝方戻って昼間寝る。私は昼行灯を雇った覚えはないんだが?」
「仕方ないじゃん?俺にもご飯が必要なのと一緒で、アイツら(……)にも食事が必要だし。探してあげないとね」
ゴロリと再び横になる。畳に柔らかい茶髪が波打って広がった。金魚、と言うよりは猫、にとても近い彼はニタニタと口角を上げて見上げてくる。緑の瞳とかち合った。
「はぁ……あのね金魚。さすがに何もしない従業員を雇い続けるほど経営は潤っていない」
「そんなに潤ってたらこんな所に居ないもんな?」
「よく分かってるじゃないか。近頃はアチラ(……)の依頼もないし、ハッキリ言って君すごく邪魔なんだよね?このままスネかじりを続けるのなら……」
スッと黒い瞳が龍真を射抜く。その瞳からは感情が伺えない。目元が歪み、口が綺麗な弧を描き始める。そして形のいい唇が開かれた 。
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