1人が本棚に入れています
本棚に追加
「依頼じゃないからこれ実質ボランティアじゃん!俺嫌だ!いやねぅー!タダ働き断固反対!」
「私からお小遣いが出るよ?」
「それ八月一日さんのポケットマネーじゃん!」
しばらく沈んでいた頭をガバッと上げて全力で駄々っ子のように拒否の叫びをあげる龍真。龍真としてもさすがに八月一日自身の貯金の切り崩しが発生するのは欠片ほどの良心が痛む。
八月一日は困ったと眉をひそめた。それでも絶対にやらないと顔に出してる龍真に、仕方ないと懐から一枚の紙を取り出す。それは龍真を動かすことの出来る数少ない魔法の一つ。
「……働く気は、ないと。これはもうコレを叩きつけ」
「あーー!!!」
ソレを手元から奪い取ってビリビリに裂いて丸く固め、ゴミ箱に投げ入れる。その時間たった三秒。
バッと八月一日の方を見ればまだまだあるぞと言いたげに大量に同じ書類を懐から取り出してきた。
「なんでそうなるんですかねぇ?えぇ、えー、あーえぇ……」
早くも最終兵器、解雇通知を切り出される。これを出されれば龍真はもう拒否することは出来ない。もう少し粘ろうかと思ったがつかの間、すぐに抗えない立場に落とされた。食えない顔でにこにこ微笑む目の前の少年にぐぬぬ、と恨めしい顔を向けた。
「今夜にでも行ってくれないか?力が付き初めた頃だからサクッと解決できるだろうし」
「……鬼」
「鬼ではないさ」
再びちゃぶ台に突っ伏す。冷めてしまうよ?と構わず食事をする少年に聞かせるように大きな音で鼻をすすって見せた。
頭上からはズズッと味噌汁をすする音が響いただけだった。
深夜二時。草木も動物も人間すらも、もう誰も起きていないその時間、明かりの落ちた駄菓子屋から一人の影が現れた。
緑色のパーカーを羽織り、深くフードを被ったその人物……金魚龍真は憂鬱そうにため息をついた。
「っはー……今夜の月はかけてるなぁ」
空を見上げれば、弱い月の光が辺りを柔らかく照らす。龍真を照らす光は足元にくっきりと闇を作り上げた。龍真はジッとその影を見つめる。
ゴポリ、と水中でよく聞く音がどこかで響く。プクリ、コプ。段々とはっきり聞こえてくる音に、龍真は満足そうにニンマリ笑った。
「今日も絶好調っぽいね、相棒達。頼むぜ、食事の時間だ」
愛用のスニーカーを三回ならして走り始める。目指すは噂の学校の中、体育館前の外にあるトイレ。
最初のコメントを投稿しよう!