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  それにしても。せっかく由貴くんの所から帰って来たのに、もう三日、ベッドを俺に明け渡して炬燵もしくはソファで眠る日々を送っておられる。俺がソファで全然いいのに。慣れてるのに。 でも、七生の匂いが染みついたベッドは手放し難く、実物に触れられないぶん布団に(くる)まってスーハーしていたいのである。が、やはり実物に勝るもの無し。そこはかとなく寝息を感じられるこの距離で、少し癖のある髪の先っちょを撫でる。昔はお風呂で洗いっこしたのに……他人に掠め盗られたかと思うと悔しい。 でも由貴くんはいい人だ。その辺に転がってる何でもない男だったら邪魔してやる所だけど、俺には勝てる要素がひとつもない。 小等部からずっとK学の生粋のお坊ちゃんで親父さん所有のクルーザーだのキャンピングカーだの別荘だのを自由に使い、豪華なマンションに一人暮らしだったと聞く。七生はそこに足繁く通っていた。夏休みとかは軟禁されてんじゃねーのかと疑う程だった。でも帰ってくると大抵背中にキスマークを背負ってやがる。 由貴くんなんか豆腐の角に頭ぶつけて死ねばいい。でもそしたら七生が悲しむからやっぱり駄目。
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