Phase.5 埋葬された真実

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「まず、読んだ率直な感想を聞かせてくれないかな。今、ここで読んでみた印象でいいいよ」  すると九王沢さんはきらりと瞳を輝かせた。 「率直に言っていいんですか?」 「う、それは」  さすがに言葉に詰まった。これだけ近しくなったから分かるが、この子、本当に容赦なしなのだ。ほんわかしてるように見えて、言い合いも鋭く果敢に挑んでくる。その迫力はまるで、レイピアで決闘する騎士である。やっぱり欧米のディベート感覚ってそうなのだろうか。でも僕は覚悟を決めた。この子と向き合うことで、僕はもう一回あの場所まで、絶対潜るって決めたからだ。 「うん、言いたいこと言っていいよ、なんでも。僕だってさっき、九王沢さんにあることないこと、さんざん酷いこと言っちゃったわけだし」  そう言えば、僕はまだそれをちゃんと謝っていなかった。僕は彼女とのディベートに敗れた上、逆ギレして置き去りにしたのだ。さっきは本当にごめんね、九王沢さん。 「批評ですから、そうした問題とは別だと思います。それにさっきのはさっきので、わたし、逆に嬉しかったですよ。いつも優しい、那智さんとは違う顔が見れましたし。たぶんさっきの、依田さんも知らない顔ですよね?」 「う、うん」  依田ちゃんにあんな態度とったら、僕は間違いなく息の根を止められるだろう。恐らく、言い訳すら聞いてもらえずに。 「またわたしだけの、新しい那智さんが知れました」  九王沢さんはそんな僕の答えを聞くと、嬉しそうに身を揉んだ。 「『苦い和平より、分かち合う痛みを』」  九王沢さんは密事を話すように、自分の唇に人差し指を当てた。 「入英以来の九王沢家の家訓です。わたしの両親も、お互いの間で認識や意見の違いがあれば、わたしが幼い時から夜中まで納得いくまで言い合いをしたりしていました。どんなに忙しいときでも。今でもたぶん、そうでしょう。わたしたちは、本質的には分かり合おうとするために対峙し、そこで対話をするんです。だから那智さんはわたしのところへ戻ってきてくれたし、『ランズエンド』に隠された那智さん自身のお話を、話すことを決意してくれた」  九王沢さんは言うと、そこで苦い和平を放棄した証としてその小冊子を供述宣誓書のように、掲げて見せた。 「じゃあ、まず一見しただけの印象を言いますね」  僕は息を呑んだ。九王沢さん、どんなことを言うんだろう。
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