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「感想としては、皆さんが合評会で那智さんに寄せていたものと、ほぼ変わりません。非常に退屈な作品でした。タイトルは内容にそぐわなく、展開はおざなりで、人物描写はあっけないほどに平板です」
うおっ、これずきっときた。
「心理描写に至ってはところどころで状況との食い違いや作者の単純な思い違いが見られ、またそこで使う必要がないと思われる比喩表現や言い回しの多様が気になります。そのためにただでさえ薄い話の筋が、作者の文章力のひけらかしで水膨れしている印象さえ受けました」
今まで受けた中で、間違いなく一番辛辣でいて鋭い酷評だった。一っ言も反論できない。皆が「ぴんと来ない」とか「話がちぐはぐ」とか「全然読み進まなくていらっとくる」とか好き勝手に言うのを余すところなく総合して成文化するとこんな感じになるのか。
「しかしそれはあくまで一見した印象なんです。まずわたしの目を留めたのは、この文章全体が、不自然に水増しされ過ぎていることでした。必要のない表現が書き足されて心理描写がぼやかされ、誰もが聞くまでもなく先が読めるような凡庸な展開や人物設定が接ぎ穂されて、それがちぐはぐな印象を与えているんです。
これはちょうど中世の画家が、発表できない画題を隠ぺいするときに似ています。出資者の王様や教会には露見しないように、当時の社会通念では許されない、画家の真意を封じ込めるときのように」
九王沢さんは絵画の美女のような謎めいた笑みを含むと、話を続けた。
「彼らも、絵画で那智さんと同じことをしました。完成された下絵がすでに存在するのにキャンバスに不必要なものを描き足して、または違う題材にそっくりと描き替えて。
そうやって元の色彩を塗り重ねでぼやかして、そこにこめられた意図を上手く隠すんです。完全に隠すのではなく、そこはかとない暗示や寓意をそこに残しながら。まるで知らずに通り過ぎていくギャラリーに、皮肉を投げかけるかのように」
「そんなに僕、すっごい人じゃないんだけど」
作品に謎をかけるなんて、これじゃまるでレオナルド・ダ・ヴィンチだ。
「確かに。彼らは『伝えてはいけないこと』を、伝えるためにこの手段を用いました。でも那智さんはたぶん、別の動機で同じようなことをしたんですよね?」
「動機って言うか、逃避って言うか」
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