Phase.5 埋葬された真実

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 例えば病気になったときなど、異物が入り込んできたときに機能する人間の免疫機能に喩えて九王沢さんはそれを表現した。そう言えば、病原菌に対処しようとする免疫機能の行動と、人間が経験を消化しようとする作業の構造はよく似ている。  いわば『異化(いか)』と『同化』の過程なのだ。  僕たちの身体は、例えば未知の病原菌が侵入してくれば、身体はそれを異物と判断し、これまでの状態を保とうとする恒常性機能を維持しようとして反応する構造になっている。  その際に自分と自分以外のもの、これをはっきりするのが『異化』だ。  それはさっきのS‐O‐R図式にとれば、『自分で判断できる変数』と『そうでない未知の変数』を区別する動きに繋がる。認知心理学者は、人間は外界の刺激(S)に対して、即座に媒介変数(O)を変容させると図式を簡略化するが、その間には、今までの自分を維持しようとする人間の恒常性からくる本能的な抵抗の中間過程があるのだ。  当然、自分の立場から『遠い』ものほど『異化』の反応は強い。外界の刺激に対してそれを自分のものとして『同化』するか、『排除』するかの判断を迫られるわけだ。もちろん『排除』を前提にしたとしても、基本的に人間は現状に適応して『同化』の道を選ぶ。     
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