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「何を言っても、何か返ってくる」
うんざりしたように、彼女は眉をひそめた。
「あなたと話してるといつもそう。あなたが言いたいことって、みんなもう、この世界にちゃんと準備してあるのよね。でも、一つとしてあなたのものじゃない。だから本当はどれも、最初から聞く価値なんてなかったのよ」
あなたは自分の言葉で語っていない。
僕は思わず目を見張った。それって、今日僕が九王沢さんに言われ続けていた言葉と同じじゃないか。そうだ、今まで気づかなかったが、僕はすでに以前、違う相手からこの言葉を投げかけられていたのだ。さすがは九王沢さんだ。彼女は無数のジャンクの中から、あの電撃的な直感力でこの言葉を掘り出してきたに違いない。
「この言葉に応えきれず、彼は再び沈黙の世界に入っていきます。絶句の過程で彼はこう考えます。(と、九王沢さんは内容を朗読した)『この世界に無数に存在する『好き』を表現する言葉。そのどれもを禁じられたとしたら、自分はどうやってそれを彼女に伝えればいいのだろう。
確かにそこにあることばかりは、僕には分かるのだ。それを伝えることだっていくらでも出来るはずなのに。彼女はそのあらゆる手段を放棄しろと言う。その上で厳重に閉じ込められた箱から、蓋を開けずに大切な中身を取り出してみせろ、と詰め寄るのだ。それを彼女は刃を突きつけてするように、僕に要求しているのだった』
物語ではここで対話は終了し、主人公はついに自分の言葉を見つけられずに終わります。締めくくりの言葉が印象的です。
『好きと言う以外にない、あいまいでいて巨大なはずの情報量を表現する他の言葉。果たしてそんな言葉があったのだろうか。それはこの世界に、ではなく、僕の中に形作られた力強い何かとして。僕は、彼女に与えられた最後の時間でついにそれを見つけることが出来なかった』」
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