Phase.1 未知との遭遇

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 この人。本人は頑なに否定するが、今どき絶滅危惧種級の超がつくお嬢様なのだ。きっとお店に行くと必ず他に邪魔の入らないVIPルームに通されて、えらい責任者が挨拶に来た上で一から十まで、給仕が付きっきりで世話を焼いてくれるのが普通、としか思ってないんじゃないか。て言うかそんな店しか行ってない。そう言う文化圏の人なのだ。だからだ。初めて遭遇したファミレスの卓上スイッチに、それほど異様な警戒感を示すのだ。 「あっ注文…いやっ怖い怖い…やっぱりこれ違う?…」  違うはずがない。一個しかないスイッチに手を伸ばしかけた九王沢さんは、意味不明の心情描写を早口で口走ると、火傷したように手を引っ込めた。  て言うか今、違う、って言った?  ここは聞いてみるべきだろうか。さて押すのは赤いボタンか、青いボタンでしょうかとか。言わなくても九王沢さんの指先が迷っている。ボタン一つしかないのに!九王沢さん以外の方はご存知ファミレスで店員を呼ぶ卓上スイッチは、二者択一とかそんなスリリングなサービス機能はついていないし、そもそも押し方を間違えたところで爆発したりはしない。絶対しない。 仕方ない。僕は意を決して、それを九王沢さんに判らせようとした。  「あの、九王沢さん…自分の注文決まったなら、いいよ、押しても」  九王沢さんは僕が言った瞬間、ばね仕掛けみたいにのけぞった。  「えっ、ええっ!?わっ、わたしが?自分で?だって…いいんですかっわたしが自分で自由に頼むなんて?そんなことしても!?」     
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