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よし、と意を決した後で、なぜか九王沢さんはおもむろに話を切り出した。なに?その言葉を口にする前、小さい声で、よしっ、て言った気がしたけど。
「那智さん、わたしのこといつも九王沢さんって呼びますよね。もしかしてわたしの下の名前、ご存じありませんか?」
「えっ、知ってるよ。サークルの先輩だし、チェックしないわけないだろ。うちが代々カトリックなんでしょ。だからお父さんが聖書の中から日本人でも、外国人でも両方通用しそうな名前択んだって言ってたけど。確か」
するとなぜか九王沢さんは、途端に切なそうな顔になった。え、待って。まずかった?
「…知らないパターンでお願いします」
ええっ、知ってるし。でも本人の希望だからしょうがない。
「ご、ごめんね。知らなくて。…な、なんだっけかなあ」
「ヒントを出します」
これが言いたかったんだと言う顔で、九王沢さんは言った。
「高速道路に関係あります。途中にあるやつです」
「いや、だから聖書でしょ」
娘に道路関係の名前つけるって、日本の議員でもいないぞ。
「知らないパターンでお願いします」
「わっ、判らない。ごめんね、本当にダメな先輩で」
そしていよいよ何か決め台詞を言うのかな、と思ってたら、九王沢さんはますます悲しい顔に。なにこれ!?僕が悪いの?
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