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しかし九王沢さんはさっぱり酔わなかった。彼女的にはそれどころじゃなかったのだ。むしろ話が合いそうな人たちに囲まれてスイッチが入ってしまったのか、談論風発、議論になると熱が入って目がらんらんとし、専攻の欧米文学のみならず宗教学、文化人類学、心理学、歴史学、果ては古今の医学や美術史芸術論に至るまで縦横無尽に語り出し、むしろ一向に泥酔する気配がなかった。
そんな調子だから元々無理くり話に付き合ってる、イケメンたちはみるみるげんなりした。
結局、お酒に目薬を入れてみるなどかなり卑劣な手も使ったらしいが、九王沢さんにはまるで効果がなかったと言う。ラスプーチンみたいな女の子だ。
「つ、次のお店に行こうか」
しかも顔の引きつったイケメンたちが半ばうんざりしながら、お店の出口までしっかりした足取りの九王沢さんをエスコートしているとだ。
「我がいとしの・エリア!」
謎の外国人が馬鹿でかい声で話しかけてきた。みんな驚いたが肝腎の九王沢さんは声を上げその人と、嬉しそうにハグしている。天野たちはぽかんである。そんなイケメンたちを尻目に、九王沢さんはその外国人とイタリア語で話している。もちろんぺらぺらだ。
「恩師です。昔、ヴァイオリンを教えて頂きました」
「ああっ!」
と、教養溢れる誰かが叫んだ。知ってる顔らしかった。
ちなみにその濃ゆい顔のイタリア人は、十年ぶりぐらいに来日したその道での世界的巨匠だったそうだ。これが気難しい、扱いにくい、怖い、の三拍子揃った巨匠らしいのだが、そんな人が信じられないくらいの満面の笑みで、
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