Phase.2 『好き』の科学

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 当たり前のことだが、九王沢さんも二十歳になったばっかりの女の子なのだ。良かった、ほっとした。だが、そんな感じで気を抜いているとまたえらい目にあった。 「那智さん、那智さん」  と、生まれたての子犬みたいな目で、ぐいぐい僕の腕を引っ張って一生懸命自分が見慣れないものを探す、九王沢さんにいちいちノックアウトされた。僕は侮っていた。これが、かわいすぎるのだ。  まずはウィンドウショッピングを、って感じで横浜ワールドポーターズに足を運んだのが、運の尽きだった。 「今度は、あっちです!あれ!ほらっ、これも!こっち見て下さいよお!」  と、もはや誰にも止められない九王沢さん。  特大テディベアのお腹に顔を埋めたり、小犬のぬいぐるみにはしゃいだり。古銭や駄菓子と言った、九王沢さんに生涯接点がなさそうなものについて矢継ぎ早に僕に説明を求めてくる。何でも答えてあげたい気分だ。そして、ほっとけない。目を離すとふらふら、危険なゾーンへも足を踏み入れてしまう。 「那智さん…さっき、知らない方に突然話しかけられたんですが。絶対領域、ってなんのことでしょうか?」 「そう言うおじさんに着いてっちゃだめ!」  お蔭で、僕はうかつに一人で、トイレも行けなかった。  でもそんなとき、九王沢さんは僕が、普段、見たことないようなきらきらの、奇蹟みたいな表情を見せるのだ。     
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