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「那智さんは那智さんの言葉をちゃんと持ってると、わたしは思います」
わたしは、それが聞きたいんです、と、九王沢さんは言った。
「ちなみにわたしは、わたしが那智さんを好きな理由を一つだけ答えることが出来ます。それはこの、作品の中にあります」
と言って九王沢さんが出したのは、あの忌まわしい前回の会報誌だった。反射的に僕は露骨に話題を反らしたくなった。
「あの大桟橋の中って、一体何やってるんでしょうかね…」
「あなたの作品と、わたしの話から逃げないで下さい」
僕はトラウマの入口で引き返そうとして、九王沢さんにがっちり引きとめられた。
「依田さんから聞いているはずです。だってわたし、那智さんの作品を読んでこのサークルに入ろうと思ったんですから」
それは正直、デマだと思っていた。
だって依田ちゃん自身が、
「あ、それデマですよ。ただのページ稼ぎさんなんだから調子に乗らないで下さい」
ってとことん辛辣だから。まさかここで本人の口から、直接噂の真相が語られるなんて思ってもみなかったから。
ちなみにその噂によるとだ。
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