Phase.2 『好き』の科学

5/25
前へ
/214ページ
次へ
「那智さんは那智さんの言葉をちゃんと持ってると、わたしは思います」  わたしは、それが聞きたいんです、と、九王沢さんは言った。 「ちなみにわたしは、わたしが那智さんを好きな理由を一つだけ答えることが出来ます。それはこの、作品の中にあります」  と言って九王沢さんが出したのは、あの忌まわしい前回の会報誌だった。反射的に僕は露骨に話題を反らしたくなった。 「あの大桟橋の中って、一体何やってるんでしょうかね…」 「あなたの作品と、わたしの話から逃げないで下さい」  僕はトラウマの入口で引き返そうとして、九王沢さんにがっちり引きとめられた。 「依田さんから聞いているはずです。だってわたし、那智さんの作品を読んでこのサークルに入ろうと思ったんですから」  それは正直、デマだと思っていた。  だって依田ちゃん自身が、 「あ、それデマですよ。ただのページ稼ぎさんなんだから調子に乗らないで下さい」  ってとことん辛辣だから。まさかここで本人の口から、直接噂の真相が語られるなんて思ってもみなかったから。  ちなみにその噂によるとだ。     
/214ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加