Phase.2 『好き』の科学

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 九王沢さんはイギリスから来日してこの大学に編入前に、うちの学祭に訪れてたまたまこの会報誌を手に取ったらしい。  あんまりにもかけ離れたルックスの女の子が、がらっがらのサークルの即売所の前に貼りついて、あの薄い本を思い詰めた顔で何度も繰り返し繰り返し立ち読みしているので、そこにありえない人だかりが出来始めたらしいのだ。SNSサイトで九王沢さんの写メを撮って拡散した奴もいるくらいだったと言う。信憑性ある話ではある。見ての通り九王沢さんは立ってるだけで、立派な広告塔になりえる。  ただこれ、実際起こってみると、製作者としては嬉しいが、販売所にとってはぶっちゃけ有難迷惑だった。依田ちゃんは買いもしないのに、九王沢さん目当てで群がってくるむっさい連中への対応に追われ、かわいそうなくらいへとへとになった。 「だあーっ、どけえーっ、どいつもこいつも!買わないならみんなどっか行け!」  と、布のはたきを武器に、呂布(りょふ)並みの無双奥義で野郎を追っ払う依田ちゃん。頼もしすぎる。書店に就職したら、店頭では欠かせない存在になりそうだ。 「あの…そんなに欲しかったら差し上げますよ、ただでそれ。どうせ売れないし」  そんな依田ちゃんに、九王沢さんはこう詰め寄ったと言う。 「この本のこの作品、これ書いた人に会わせて下さい!」     
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