Phase.2 『好き』の科学

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 十二月の陽は本当に短い。僕たちは山の手を北上すると、日暮れ前のみなとの見える丘公園にいた。ちょうど今、横浜港が一望できるこの場所は、落日前の神々しい光が降りてきている。その黄金色の光を浴びて、神々に祝福された九王沢さんと、もろもろ見放されたすすけた僕が歩いている。  そこからは陽が暮れるのを待って、中華街近くの生演奏が聴けるジャズバーに行って、赤レンガ倉庫街でクリスマスイルミネーションをみて、後は野となれ山となれコースだったのだが、九王沢さんの話に引っ張られたせいか、そのことはすっかり頭に入ってこなくなっていた。 「『ランズエンド』と言うタイトルはどこから?」  岬を渡る際立って冷たい海風に髪をなぶられながら、九王沢さんはついに僕の書いた作品のタイトルのことを口にした。 「特に意味はないよ。海辺へドライブに行って、そこでふられる話だから」 「関係の果てを地の果て、とかけた寓意ですか?」  僕は素直に頷いた。  一般的にランズエンドは「(みさき)」と言う意味だが、ケルト人にとっては「地の果て」を意味したそうだ。つまりはそこから先は生と死との境界線、すなわち別世界との分岐点。     
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