Phase.2 『好き』の科学

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 そう言うタイトルだと想像力が刺激され、なんか暗示的な感じがするが、内容は今どき書くのも敬遠されるほど単純なストーリーだ。もう終末期のカップルがいて二人のうち、男の方は別れたくない、女の方はうんざりして半ば面倒くさくなっている。二人が出した違う結論が、決断に変わる果てを描きたかったのだが、 「全然そうなってないですけど?」  タイトルだけなにカッコつけてんですか、と、依田ちゃんには、いらっとされた挙げ句眉をひそめられた。 「ランズエンド岬に行ったことは?」 「ないよ」  九王沢さんが言うのは、イギリスの観光名所の方だろう。  このランズエンド岬はイングランド南西端のコーンウォール州と言う地域にある。鉄道よりも車や夜間バスが主なアクセスと言う辺境だ。ちなみにイングランドの本島では一番西にある『地の果て』を謳っているが、位置的には本当の地の果ては別の場所らしい。  地理学上の最果てではなく、その地に住んだケルト人の信仰上の問題と言える。ちょうど日本で言う浄土思想、つまり海の彼方に極楽があると言う考え方を元に陸地の果てを、浄土ヶ浜や浄土ヶ浦などと称したのと一緒だ。ちなみにイギリスだけでなく、例えばフランスなどにもケルト人が足跡を残した岬には、ランズエンドの名前がつけられている。  大体僕の作品はイギリスほとんど関係ない。舞台は僕の地元、太平洋の荒波洗う千葉県の銚子市(ちょうしし)の海っぱた沿線である。 「やっぱり銚子の犬吠崎(いぬぼうさき)や九十九里浜じゃ、雰囲気でなかったかな?」     
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