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「そんなことありません」
九王沢さんはきっぱりと、言った。
「そんなことないです。文章を読んでいてそこに行ったことのないわたしにも、ちゃんと風景がつながりましたから。不思議なお話だと思いませんか。わたしはランズエンド岬に行ったことはあっても、千葉県銚子市の岬に立ったことはありません。そして那智さんは犬吠崎から見る海を実際に目の前にしたことはあっても、ランズエンドの地に立って同じことをしたことはない。
その二人がただ一つの文章で、同じイメージを共有できたんです。これってとても素晴らしいことだと思いませんか?」
「そうかな…」
理論上はそうだけど、どうもぴんと来ない。
「奇蹟ですよ」
完璧に曇りのない笑みで、九王沢さんはそう断言した。
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