Phase.2 『好き』の科学

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 ちなみに九王沢さんのその行動は、心理学ではミラーリングと言う。同調行動だ。相手と同じ行動をしたり、共通点を意識することで、お互いの距離を縮めようとする。恋愛をする人間が本能的にとる代表的な行動なのだ。  簡単に言えば僕に合わせようとしてくれてるってことなのだけど、一向にそれが僕に実感できないのはなぜだろう。ってカッコつけてもしょうがない。痛いほどよく判ってる。それは九王沢さんのせいじゃなくて、全面的に僕のせいだ。僕自身に問題がありすぎるせいだ。  そもそもだ。  九王沢さんの立つ位置から、僕が見えると言うこと自体が驚天動地の奇蹟なのだ。距離的な問題で言えば、それはイギリスのランズエンド岬と日本の犬吠崎どころか、違う周回軌道上の惑星のそれに近い。本来ならば九王沢さんの人生に、僕が登場する確率は天文学的にゼロに近いはずなのだ。 「でも、わたしは今、ここにいます。ここまで一緒に話をしてきてずっと、そして思い続けています。もっと沢山、那智さんとお話したいと」  その接点はただ一点だ、と言うように九王沢さんはちっぽけな会報誌のさらにちんけな僕の作品を指し示す。その光景、何度見ても、穴があったら入りたい。     
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