Phase.3 掘り出された運命的直観

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 僕が内心、思わず息を呑んで絶句したのはそのときだ。だとしたら彼女のあの確信犯的な声音は、すでにそこまで見通してのことだったのだ。  そんなはずはないのに。  僕がいくら、時間をかけて感情のジャンクで記憶を埋め尽くしても。誰にも判らないように、誰にも触れられないように、廃棄物の埋立地にそれを遺棄しても。膨大な言葉のジャンクから九王沢さんはそれを一気に掘り出していたとしたら。 「九王沢さん、君はなんで…」  そこまで分かるんだろう。いや、僕の何が分かっていると言うのだろう。  僕と縁も所縁(ゆかり)もないイギリスからやってきて。ただ暇つぶしに開いたような、大学生が趣味で執筆した作品の寄せ集めを読んで。僕のことなど何も知らなかった癖に、勝手にそう思ってるだけのことじゃないか。 「いや、それはさ…」  誤魔化しをとっさに口に出来ず僕は、こみ上げる唾を飲み下した。  にわかに納得できるはずがない。気を取り直せ。深い息をついた僕はそこで、声音を紛らわせて、場を和らげる笑いを作った。 「あれは何度も言うけどただの駄作だよ」 「駄作のはずです」  しかし九王沢さんは、あの完璧な笑顔で断言した。 「あの『ランズエンド』と言う作品には本当に描きたかったことの、ただの断片しか描けていないから。いや、わざと消してあるんです。あなたがそれを誰かに納得させることを放棄したから」  でも、と彼女が言う次の言葉が僕の胸を一撃で刺し止めた。 「あなたが書く以上、自分以外は誰にも伝わらない、なんて誰が言えるんですか?」
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