Phase.4 ランズエンドでもう一度

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 九王沢さんはそこで、本当に哀しそうな表情をした。そんなことを僕が言うなら、もはや返す言葉は尽きたとその顔は言っていた。僕にも痛いほどに分かってはいた。僕が言うように、九王沢さんが見栄や自惚れや、たかだかエリート意識を満足させるために僕にここまで肩入れしようとしているわけないじゃないか。  九王沢さんは必死に僕を受け入れようと思って話しているのだ。と、言うより今日一日、彼女はずっとそうだったはずなのだ。  それが分かってなお僕は、ちっぽけな自分のプライドを守るためだけに九王沢さんを傷つけようとするためだけの言葉を重ねてしまった。いつの間にか、その乱刃(らんば)がつけた生傷は僕自身ばかりか平気で九王沢さんを傷つけてしまったのだ。  たまらなく居たたまれない。初めから分かってはいたのだが、僕が九王沢さんとここにいる資格は、本当にとことんのレベルでないのだ。  これ以上彼女の顔を見ることすら出来ない僕は、突然(きびす)を返して歩き出した。どこでもいい。ここからただ、逃げ出したかったのだ。言い訳すら出来ません。全力の現実逃避だった。  九王沢さんは僕に、ついてこなかった。当たり前だ。こんなひどい男、もう金輪際、知り合いとしても願い下げだろう。  やけに明るい月を浴びながら、僕は歩いた。途中コンビニで常温の棚に並んでるワンカップを買うと、しょっぱい聖夜の月を仰ぎながら一気飲みした。どうせならこの際、何も考えられなくなるほど泥酔して、三日酔いぐらいになりたかったのだ。だがぬるいお酒は甘ったるいだけで、みっともなくむくれた心を腐らせる以外にはなんの役にも立たなかった。
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