椿と清

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「そう、きみが毎年、命日にはお墓参りしているんだね…」  しかし老人は質問に答えずに遠くを見ている。 「彼は……いいお孫さんをもったね」  言葉とは裏腹に、なぜ、そんな悲しそうなのだろう。 「…きっと……しあわせだったんだね…」  誰に言うでもなく、老人はそうこぼして、それっきり黙り込んでしまう。俺が掃除し終えるまで、ただ静かに背中を丸めて座っていた。 「もう、行きますね」 「…ああ、そうだね」  考え事をしていたのか、はたっと気付いたように杖を使って腰を上げて覚束ない足取りで歩き出す。  たった三段しかない階段だけど下りにくそうにしているので、思わず自分が先に下りて手を差し伸べた。 「ありがとう…」  そう言って微かに口元を綻ばせた。 「学生服か…きみは学生さんだね…わたしにもきみぐらいの孫がいてね」  来た道を戻るだけだが、小さな歩幅の老人にペースを合わせたら随分ゆっくりした時間に感じた。その合間に他愛もない話を交わす。  学ランを着ているから大体の年齢は分かるようだ。
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