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エレベーターが止まると、音を立てて扉が開いた。聡美が先に出、それから正一が続こうとしたとき、頭上の階数表示を見上げた。
「……あれ」
「何」
聡美が振り向く。
「ここ、違うよ。部屋はもう一つ、上の階だ」
ボタンのパネルを見ると、さっき押した四階の表示が、まだはっきりと瞬いていた。見ると廊下の壁には、3、という案内板が貼ってある。
その先には、人気のない薄暗い廊下が、ずっと続いていた。
「えっ。私ちゃんと、四階を押したのに」
「誰かがこの階で押して……きっとそのままどこかに行ったんだろ」
いまだ納得のいかないような顔をしたまま、聡美はエレベーターの中にもう一度戻ってきた。二人の前で扉が閉まると、エレベーターは再び、大仰な音を立てて上がり始めた。
☆
部屋の中に入ると、聡美が照明をつけ、先に靴を脱いで上がっていった。
続いて正一が入ったとき見ると、聡美がすぐ近くの壁に顔を向け、立ったままそこで警戒するようにしていた。
「……」
その態度は、少し、あからさまに過ぎた。
正一は、何も言わず脇を通り抜けると、鞄を置いてベッドの方に行った。聡美は顔を上げると、意外そうな顔でその後ろ姿を目で追った。
「……今日は、何もしないのね」
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