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あれから家に帰った私は、暫くの間呆然としていたが、実感が沸いてくると自然と涙が溢れ出していた。
正直、これまで何も勘付いていなかったわけではない。「自分で買った」とは言いつつ、明らかに彼の趣味ではない家具や、服。そんなものを見かけるたびに胸はざわめいていた。
きっと、先程の女だけではないのだろう。実際に現実を突きつけられるまで気がつかないふりを続けていた自分にもほとほと嫌気がさす。
彼の働くバーには、彼目当てで来店する女性客もいるという話を彼の同僚から聞いた事がある。あのとき、その同僚の私を見る目に憐れみが含まれていたのも、この結末を見越しての事だったのだろうか。
自分は、自分だけは特別な存在なのだと信じたかった。だが結局は、何人かいるうちの一人に過ぎなかったのだ。
様々な感情がせめぎ合い、どうしようも無くて、ただ涙を流すことで自分を保った。
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