第一章-2

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 いきなりの命乞いに、鬼の二人は呆気に取られた。辺りは既に、闇に包まれている。鬼の二人には、星明りであろうと昼と変わらずにものを見ることができるが、人間にそれはできまい。  だのにこの男は、明かりひとつ持たずに暗闇に潜んでいたのである。  訝しく思い、火白は腕組みをして地面に這いつくばった男を見下ろした。  土埃を浴びているが、着ている物には良い生地が使われている。懐具合も悪いようには見えない。ともかく、夜の街道に潜むにはふさわしからぬ人間に見えた。  打ち伏していた男は、火白たちが何もしてこないことに気づいたのか、そろそろと面を上げる。品の良い顔立ちの、三十そこそこの男だった。 「わ、私を喰わないんで?」 「妙なやつだな。何故俺たちが人を喰うと思った」  火白も雪トも、鬼の証である角は隠している。多少不自然さはあるかもしれないが、人間と変わりない格好をしているはずであった。 「そりゃ、その……先ほどから、この暗闇で平気の平左でおられたようですから。……お前さん方は、鬼なのですか?」  火白と雪トは顔を見合わせた。確かに、新月の夜に川原でやいのやいのと騒いでおれば、真っ先に妖物を疑うだろう。二人揃って迂闊だったと言わざるを得ない。 「応。おれらは鬼よ。だがま、人を喰おうという気はない。それより、この暗闇は人には危険だろう。とっとと帰れ帰れ」     
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