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しっし、と犬の子でも追うように火白は手を振った。だが男は、すぐには立ち去ろうとしなかった。土の上で膝を揃えたまま、面目無さそうに頭をかいたのだ。
「それがその……」
男は何か、歯の奥にものが挟まっているような言い方をしながら、立ち上がる。一度、着物の裾を払って立ち上がる。と、思う間もなく裾を正して、もう一度地面に頭を擦りつけた。
「お願いでございます!鬼と仰るなら、どうか血を分けてくださらないでしょうか!」
「はっ?」
やおら這いつくばった男に、火白の口から間の抜けた声が出た。
「無茶なこととは分かっております!ですが曲げてお頼みします!どうか、そちら青い鬼様の血を、大皿ひとつ分頂けないでしょうか」
「お前、急に何を言い出す」
低い声を出した雪トである。体が頑丈な鬼であろうが、血を大皿一枚分も取られるのは、ただ事ではない。
まして、いきなり主の血を出せと言われれば、雪トの目つきが剣呑になるのも至極当然だった。見た目だけで言うなら、自分よりかなり歳下の青年にすごまれ、男は更に縮こまる。しかし、言葉を翻そうとはしなかった。
「雪、伸すのは待て待て。お前が殴ったら、この御仁、心の臓が止まってしまうぞ」
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