第一章-2

5/8
86人が本棚に入れています
本棚に追加
/268ページ
「は、はい。鬼の血を、大皿一杯に飲めば、きっと病は治るからと」  元々鬼の血は、世間に知られてはおらぬが万病の薬なのだと、その女は言った。非常に美しく、浮世離れした美貌に、幸七郎は心が動いたそうな。  しかし、鬼の血である。  薬屋に行けば手に入るものではない。そもそも、幸七郎にとっては鬼など絵草子の中でしか見たことはなかった。  どうすれば手に入るのかと、途方に暮れた幸七郎に、女はさらにあることを囁いたそうだ。 「この川に、氷上というところから流れて来た鬼が出るのだと、そう言われました。今晩行けば、川原に出る鬼がいると、青い髪の若い鬼に頼み込めば血を分けてくれるだろうと」  幸七郎は懐から、白木の鞘に収まった小刀を取り出す。見た瞬間に、火白の背中にぴり、と痛みが走った。退魔の刀というのは本物であるらしい。 「勝手な話を抜かすな。退魔の刀で斬られて、無事で済む鬼がいるものか。まして、血を寄こせなんて」  退魔の刀を見て怒りがぶり返したのか、雪トは男を睨みつけていた。普段は黒い瞳の底に、鬼の証である金色の光が瞬いている。それを見て、幸七郎はまたもごくりと喉を鳴らした。  だが、逃げ去る気はないのか、そのままお願いいたしますと繰り返すばかりである。     
/268ページ

最初のコメントを投稿しよう!