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「だがしかしなぁ、そんな奴らを喰わねばならんというのも、面倒だったからなぁ」
腹を下しそうだ。血が汚れそうだ。
その他適当な理屈を並べ立てたせいで、ついに親父の堪忍袋の緒を切ってしまったのだ。
不味いことをしたなぁ、と思いながら、ひとり火白童子は街道の松の木の上で煙管をくゆらしながら思っていた。
家の蔵で埃を被っていたこの煙管は、葉を詰めずとも火を点けずとも、くわえているだけで勝手に煙が出て来るのだ。
煙草の味など知らぬし別に興味もないが、格好だけはつけたいという阿保な己にはちょうどいいと、勝手に持ち出したのは、もう五十年も前のことだったろう。以来、考え事をするときはこの煙管の端を噛んで煙を見るのがくせになってしまった。
「やはり、おれは筋金入りの阿呆だなぁ」
煙の輪の向こうに見える山を眺めて、呟いた。
そもそも、里を継ぐことのできる大人の鬼になるためには、必ずひとり人間を喰わねばならなかった。それも、より強く力のある人間のほうが良いのだそうだ。そういう人間を喰ったら、喰った人間の体や魂を己のものにでき、それによって強くなれるのだそうだ。
ともかくも、氷上の里の鬼たちは皆その話を信じていたし、喰うことでようやく一人前の鬼と認められるのだ。喰わなければ、そいつはいつまで経っても半端者扱いだった。
親父殿のときは、どこぞの足利ゆかりの腕の立つ益荒男と一騎打ちの果てにその血を啜り、肝を喰らったと言っていたし、腹違いの弟である風吹などは爺やが語ったその物語を、目をきらめかせて聞いていた。
風吹の幼い顔には、己もいつかそうなりたいのだとありありと書いてあったが、その横で火白が何をしていたのかと言えば、今にも寝こけそうな頭を必死に支えていたのである。
阿呆の火白という異名をつけられたのは、あれ以来だった気がする。
「だが、仕方ないではないか。おれの前世は人なのだから」
やることもない火白は、過去を思い出して呟いた。
食わず嫌いの火白とまで言われていたのには、本人に言わせれば理由があった。
生まれつき、火白は前世の記憶を持っていたのである。
そこの火白は人間で、どこぞの家で平和に暮らしていたのだ。ぼんやりした光景しか残ってはいないが、飢えた感覚もなく人を殺めた覚えもないから、どこかやんごとない家でのんびりと暮らしていたのだろう。
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