第一章-3

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「おれは……えーと、医者だ。そちらの亭主の幸七郎殿に言われて来たのだ」  そこへ部屋に飛び込んできたのは、当の幸七郎である。その襟首を軽々と掴んで、青い髪の青年はお(たな)の主を床の上に落っことした。 「幸七郎とその妻のお千絵殿。おれは火白童子という。そこな幸七郎殿と知り合ってな、病の子どもを診ようと来たのだが……」  そこで一度言葉を切って、火白と名乗った青い髪の青年は、千絵に抱かれた芯太を見た。 「その子は病ではない。呪いだ。有体に言って呪われておる。おれなら祓える故、少しその子に触れさせてくれぬか?」 「な、何をいきなり仰いますか!」  お千絵が子どもを抱く腕に力を込めた。 「お千絵、この人は……じゃなかった、このお」  ぎろり、と追いついてきた黒い髪の青年が、幸七郎を睨む。咄嗟に、幸七郎は言葉を反転させた。 「えーと、このお医者さま……でもなかったか、このお祓い屋の火白さんは確かな人なんだ」  ひとつその子を預けておくれ、と幸七郎はお千絵の手を取って言った。 「本当に?幸七さん、また妙な壺でも掴まされたんじゃ」 「い、いや、今度は違う。今度こそ本当だ」 「その前も、その前も、同じことを言っていたわよね」  却って眼を三角に尖らせていくお千絵と、眼が泳いでくる幸七郎である。     
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