第一章-3

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「おいおい、夫婦漫才しておる場合ではなかろ。……そうだの、だが確かに、対価がなければ信用されぬか」  むむ、と火白は首を捻ってから、ぽんと手を打った。 「では、こうしよう。お主らの子を治すから、代わりに江戸での仕事を紹介してくれ。田舎者故、右も左も知らぬのだ。できなかったら、叩き出せばいい」 「それならばできようもありますけど……」 「よし、では済まぬが、芯太を布団の上に寝かせてやれ。抱かれたままでは診られん」  お千絵は訝し気な様子のまま、それでも夫と目の前の毒気のない青年を信じる気にはなったのか、芯太を布団の上に横たえた。 「おっ、かさん?」  寝かされたので不安になったのか、芯太が眼を開ける。お千絵はその頬をゆっくりと撫でた。 「大丈夫。お医者さまが来てくれたからね」 「応とも。少し眼を閉じておれ、芯坊。母の手を握っておれば、すぐ済むぞ」  にっこりとやさし気なほほ笑みを向けられ、芯太は熱で赤くなった顔をちょっと緩める。そのまま、小さな手で母の手を握ると眼をすぐに閉じた。 「よし、そのまま握っておいてくれ」  言うなり、火白は懐から煙管を取り出した。弓と矢が彫り込まれた、凝った造りの煙管から、火を点けたわけでもないのに、もくもくと薄紅色の煙が吹き上がる。 「火白さん、こ、これは……」     
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