第一章-3

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(あやかし)の術だ。黙って見ておれ。吸っても構わんが、眠くなるぞ。窓は開けるなよ」  狭い一間に立ち込めた煙の中、火白は指で印をいくつか結ぶ。その動きに合わせて、煙がぐるぐると部屋の中で渦を巻いた。 「(ばく)ッ!」  最後に袖を払い、火白は指先を芯太の胸元に向けた。瞬間、小さな子どもの体から、黒い靄が立ち上って、火白の左腕に蛇のように絡みつく。  火白は顔色ひとつ変えずに、黒い霞が巻き付いたのと逆の手で、芯太の額にはりついた髪をそっと退けた。煙管を一振りすると、部屋の中に蟠っていた薄紅の煙は皆煙管に吸い込まれて消え失せる。 「具合はどうだ?芯坊」  左手を右の袂に突っ込んで隠しながら、火白は問いかけた。ぼんやりと、芯太の瞳が開く。直後、大きな腹の虫が鳴く音が部屋に響いた。  お腹を押さえて、芯太は布団の上で身を起こす。その額に手を当てたお千絵の顔色が、信じられないものを見たように変わる。 「……おっかさん、おなかがすいたよ」 「それは結構なことだの、芯坊」  そのまま火白は立ち上がると、雪トに手で合図をして、廊下に出た。雪トが襖を閉じると、親の喜ぶ声が聞こえてきた。  それを聞きながら、雪トは火白の肩を掴んだ。 「おい、主。その腕、何を隠した?」 「ああ、これか。何でもないさ」     
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