第一章-3

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 火白が袖を払うと、その下には黒い蛇が巻き付いていた。しゅうしゅうと音を立てるそれは、頭から尾の先まで黒く、瞳と舌は血のような赤だった。  蛇が牙を剥いて、火白の腕に噛み付く。血は流れず、火白はそのまま蛇を掴んで手首から引き剥がした。 「あの子に憑りついていたモノだよ。こうなると、一層不気味だの」  幸七郎からかすめ取っておいた退魔の小刀を取り出すと、火白は蛇の脳天を突き刺した。  袋に入った煙は抜けるときのような音を立てて、蛇が火白に掴まれたままのたうち回るが、やがて黒く薄い靄となって、跡形もなく霧散していった。後には黒い鱗が一枚だけ残り、火白はそれを袂に放り込んだ。 「何をしたんだ?」 「呪いをおれに移して、引っぺがして斬った。これで芯太は治るだろうよ」  その言葉が終わるか終わらぬかのうちに、障子が開き、中から幸七郎と芯太を腕に抱いたお千絵が現れた。芯太の熱は嘘のように下がったが、数日の間ろくにものも食べられないで寝込んでいたために、ひとりで歩けないほど腹を空かせていたのだ。  だが、二親からしてみれば、芯太が飯をねだることすらも嬉しくてたまらないらしく、にこにこと満面の笑顔だった。 「火白さんに、雪トさん、ありがとうございます。本当に、ありがとうございました」  芯太を抱いたお千絵は、火白と雪トに頭を下げると、階段を下って行った。     
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