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ぱっとお夏の顔が輝く。だが、火白と雪トを見たとたん、お夏は訝し気に眼を細めて、幸七郎の後ろに隠れた。
「お父さん、このひとたち、おでこのところに何かあるよ。角、みたいなの」
おや、と火白は眼を細めた。普通の人間には見えないようにしていたはずなのだが、小さな子どもには勘の鋭い子もいて、そういう子に行き当たると、見破られることもあった。
「眼が良いのだな、娘子。おれは確かに人間ではなく、妖だよ。鬼と言われておる」
「そうなの?」
父親の衣の裾を掴んでいたお夏は、それを聞いて顔を出した。後ろで雪トが、驚いたような声を出したのを放っておいて、火白はにかりと笑った。
「そうさな、確かにこの格好では少々まずいか。……よし」
直後、またも火白の煙管から煙が出る。それは雪トと火白の全身をすっぽり包み、一時親子の眼から二人の姿を隠した。
「ちょっ、火白さん!ここ、家なんですよ!煙が出てるところ見られたらまずいんですって!」
火の不始末には、厳しい処罰が下されるのだ。朝っぱらから、店の二階から煙がそう何度も立ち上っているところを見られたら、後々差しさわりが出るかもしれなかった。
「お、済まぬな。しかし、もう終いだぞ」
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