第一章『鬼の青年』

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 前世がどうだこうだと理由をつけていたが、詰まる所は長になるために越えなければならない試練を、己の拘りで諦めただけなのだ。それがたまたま人を喰うという儀礼であっただけで、里長になるための気概がない嫡男を家から叩きだした父の判断は、正しかったと思う。 「風吹は良いやつだからなぁ、おれよりよほど上手くやるだろう」  克己心溢れる弟である。近頃は、あちらが勉学に励んでいたために親しく話せていなかったが、幼い時分に兄さん兄さんと慕ってくれた姿を、火白は覚えていた。腹違いではあるが、自慢の弟だった。  これで母が存命だったのならば、父鬼から追放される姿を見せたくないと頑張ったかもしれないが、やさしく穏やかだったという彼女も、火白を産んだときに儚くなってしまっていた。  阿保の嫡男など、おらぬほうが無用な争いに繋がらなくていい。故に、火白は追い出された者としてはあるまじきさっぱりとした気分だった。  里に残して来たものは色々とあるのだが、そうしたほうがいいと思って置いて来たものばかりだった。 「さて、そうと決まれば旅を続けるか」  鬼である故、滅多なことで火白は腹を空かさないし、金銭も必要としない。     
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