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第一章-3
福禄屋は、江戸の通町から道数本ほど離れたところにある小さな店である。
その店先に、まだ朝が明けきらぬうちから、変事があった。店の主である幸七郎が、かなり歳下の若者たちに担がれて帰って来たのである。
主人を担いで帰って来たのは、主人よりかなりく見える青年二人だった。
二人とも、六尺(百八十センチ)ほどでかなり大柄な体格をしていた。
片方は黒く長い髪を一本に束ね、もうひとりは耳の下でざんばらに切られたような珍しい青い色の髪をしていた。
「臭い」
若者二人のうち、背の高い青い髪のほうは、店に入るなりそう呟くと、二階の階段をあっという間に駆け上がった。
「ちょっ」
「済まぬ、これは一刻を争うことだ」
二階から、青年の声だけが降ってくる。黒い髪の青年に担がれていた幸七郎も、慌てて二階に駆け上がった。
「ここか」
青い髪の青年が立ち止まったのは、二階の一間である。すぱんと迷いなく障子を開け放った彼を出迎えたのは、布団にくるまれた子どもと、その傍らに座るまだ若い女である。
「どなたですか!」
血の気のない白い頬をした若い女性は、とっさに子どもを庇うように身構えた。
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