第一章-4

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第一章-4

 福禄屋は、幸七郎の祖父が始めた店だという。小さいながら、手堅く商いを続け、江戸日本橋の通町近くに店を構えるに至ったという。  欲を出さずにこつこつと商いを続けてきた祖父、父の背を見てそれなりに裕福な家で育ったからか、幸七郎は、気のやさしいままお店の主になった。  妻のお千絵、双子の姉弟であるお夏と芯太と、それに近くに住むという出戻りの姉とその同居人と、とにかく家族だけで店を回しているのだ。八歳になるお夏と芯太も、店を手伝って働いている。  まさに、家族一丸となってやっている店なのだ。  そこに転がり込んできた青年たちは、二人が二人とも人ではなかった。  妖である。鬼なのである。  今は少年に姿を変えた彼らは、福禄屋の座敷に通されて、そこに胡坐をかいて座っていた。いつもなら、もう店を開けている時間だが、まだ話があるという火白が言ったので、幸七郎はまだ表の扉を開けてもいなかった。  そうやって、静かになった福禄屋の座敷で、さっきからしきりと、濃い青の髪をした少年の額を触ろうとしているのは、娘のお夏とその双子の弟の芯太である。     
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