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犬飼先生とサバト
前髪の隙間から見える空には、鱗雲が広がっている。
もう、すっかり秋だった。
シャツ一枚では肌寒くなった腕を擦って、俺は小さくくしゃみをする。
「何、佐伯、その可愛いくしゃみ」
早速、小野さんが絡んでくる。どうしてこういうタイミングで傍を通りかかるのか。
「羨ましいな、そういう『くしゅん』ていうの」
ひょこっと山本さんも顔を覗かせる。
数週間経って、ようやく山本さんは、俺と普通に会話を交わしてくれるようになった。その代わり、俺が前髪を上げようとするのを、徹底的に阻止してくる。
「あれ、山本さん、髪切った?」
「うん、気が付いた?」
嬉しそうに、山本さんが笑う。やっぱりかわいいが、実はどこがどう変わったのかは分からない。
「首元、ネックレスが見えたから」
「おい、佐伯、どんな気が付き方だよ」
「あはは。まあまあ、小野ちゃん、気が付いてくれただけ、ありがたいよ。ねえ、佐伯くん」
「…ははは」
乾いた笑いを返すしかないが、小野さんの視線がまだ突き刺さったままだ。
「お、俺も、切ろうかな…なんて」
「え? 駄目だよ、絶対、ダメ!」
「でも、もう前髪邪魔でなんも見えないし」
「駄目、それだけは許しません」
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