犬飼先生とサバト

2/9
前へ
/222ページ
次へ
「なんでよ、やま」  何かを感づいた小野さんが、俺の前髪をぺろりとめくりあげ「ああ、こりゃ、ダメだ」と珍しく目を剥いて呟き、山本さんと目配せをして頷き合った。 「佐伯はそのままの佐伯でいて」  謎のお達しまで受け取る。俺は、マッシュルームカットから抜け出せないまま、冬を迎えるのか。秋とか、イメチェン、したいじゃん。 「秋だから、きのこでちょうどいいじゃん」 「よくないよ。春も夏もきのこだったよ」 「後ろなら短くしてもいいよ」 「ベスト・オブ・キノコ狙えばいいじゃん」 「狙うか、そんなもん」 「あ、D組の東野君が『佐伯には敵わない』って、こないだオシャレパーマに変えたよ」 「話を膨らませるなって」  通りすがりの女子が首を突っ込んで、けらけら笑いながら去っていった。 「そういえば『けたけた』の話、聞かなくなったね」 「あー、うん、そーね」  俺はあわあわと狼狽えて答えた。  まさか、俺が『けたけた』を媒介していて、それをもう卒業したはずの井上先輩が、なんだかよく分からない方法で解決したなんて、言えない。ましてこの学校に、そういう得体のしれないモノが湧きやすいなんて、口が裂けても、言えるわけがない。     
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加