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「なんでよ、やま」
何かを感づいた小野さんが、俺の前髪をぺろりとめくりあげ「ああ、こりゃ、ダメだ」と珍しく目を剥いて呟き、山本さんと目配せをして頷き合った。
「佐伯はそのままの佐伯でいて」
謎のお達しまで受け取る。俺は、マッシュルームカットから抜け出せないまま、冬を迎えるのか。秋とか、イメチェン、したいじゃん。
「秋だから、きのこでちょうどいいじゃん」
「よくないよ。春も夏もきのこだったよ」
「後ろなら短くしてもいいよ」
「ベスト・オブ・キノコ狙えばいいじゃん」
「狙うか、そんなもん」
「あ、D組の東野君が『佐伯には敵わない』って、こないだオシャレパーマに変えたよ」
「話を膨らませるなって」
通りすがりの女子が首を突っ込んで、けらけら笑いながら去っていった。
「そういえば『けたけた』の話、聞かなくなったね」
「あー、うん、そーね」
俺はあわあわと狼狽えて答えた。
まさか、俺が『けたけた』を媒介していて、それをもう卒業したはずの井上先輩が、なんだかよく分からない方法で解決したなんて、言えない。ましてこの学校に、そういう得体のしれないモノが湧きやすいなんて、口が裂けても、言えるわけがない。
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