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あれから、写真部の部活には顔を出すが、井上先輩が来たことはなく、紅緒さんも何も言わなかった。他の先輩たちは知っているのか知らないのか、まるで話に触れてこず、俺も口に出すのがはばかられる気がして、うやむやなままだ。
結局、写真の謎が残ったまま、いつもの日常が戻りつつある。
「それにしても、風邪ひいてる人、多いよねえ」
「そうだねえ。佐伯も気を付けなよ、さっきくしゃみしてたじゃん」
「ふぁ…くしゅん」
「また、そんな可愛いくしゃみ…」
「誰か俺の噂でもしてんのかな」
ティッシュを取り出して鼻をかむ。
俺のティッシュケース入りのポケットティッシュを見て、小野さんが少し引いた。
「噂とい・え・ば!」
嬉々として、山本さんが身を乗り出す。
「知ってる、ねえ、知ってる? 知らないでしょー」
「な、なに」
「佐伯くんは、知らないよねー」
ふふん、と自慢げに、山本さんが顎を上げた。なんだ、なんなのだ。
小野さんが、あああ、という感じで額に手を当てて苦笑いを浮かべた。
「新しい噂を、ご存知ですか!」
「し、知りません。すみません」
「さすが、佐伯くん! それでこそ、佐伯くん!」
ごそごそと鞄を探る山本さんの襟元から、ころんと、銀色のネックレスが零れる。女子はやっぱり、こういうの好きなんだな。
「じゃーん。こちら、ご覧ください」
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