犬飼先生とサバト

3/9
前へ
/222ページ
次へ
 あれから、写真部の部活には顔を出すが、井上先輩が来たことはなく、紅緒さんも何も言わなかった。他の先輩たちは知っているのか知らないのか、まるで話に触れてこず、俺も口に出すのがはばかられる気がして、うやむやなままだ。  結局、写真の謎が残ったまま、いつもの日常が戻りつつある。 「それにしても、風邪ひいてる人、多いよねえ」 「そうだねえ。佐伯も気を付けなよ、さっきくしゃみしてたじゃん」 「ふぁ…くしゅん」 「また、そんな可愛いくしゃみ…」 「誰か俺の噂でもしてんのかな」  ティッシュを取り出して鼻をかむ。  俺のティッシュケース入りのポケットティッシュを見て、小野さんが少し引いた。 「噂とい・え・ば!」  嬉々として、山本さんが身を乗り出す。 「知ってる、ねえ、知ってる? 知らないでしょー」 「な、なに」 「佐伯くんは、知らないよねー」  ふふん、と自慢げに、山本さんが顎を上げた。なんだ、なんなのだ。  小野さんが、あああ、という感じで額に手を当てて苦笑いを浮かべた。 「新しい噂を、ご存知ですか!」 「し、知りません。すみません」 「さすが、佐伯くん! それでこそ、佐伯くん!」  ごそごそと鞄を探る山本さんの襟元から、ころんと、銀色のネックレスが零れる。女子はやっぱり、こういうの好きなんだな。 「じゃーん。こちら、ご覧ください」     
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加