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「それ、そういう笑い方してた子がいて。自転車置き場のところでさ、なんかけらけら笑ってて、電話してたのかもしれないけど、周りに誰もいないから『何だあ』って思ってそっち見ながら走ってたら、タイヤが突然回らなくなって、コケたの」
「えぇ、佐伯、それマジで。ヤバくないまんま『けたけた』じゃん!」
「え!? やめろよ」
「うそ、佐伯くん、けたけた、見ちゃったの?」
「なんかさ、けたけたに会うと、体調悪くなるって聞くよね」
「平気?」
心配そうに眉を寄せて俺の額を覗き込んだ山本さんが、ほんの一瞬、固まった。
「…やだ…」
「へ?」
「…やっぱ、ヘアピン返して」
「え?」
山本さんは何故かそそくさとピンを奪い取り、俺の前髪を指で散らして元通りのすだれ状態に戻す。なんだ、なんなのだ。
「どうしたの、やまー」
「いいから、いこ」
「ちょ、けたけたの続きは」
「続きなんてないよ、ばか佐伯」
「…え、ええー」
山本さんは、すぐそばにいた小野さんの腕をとって、さっさと自分の席へと戻っていく。周りの憐みの視線が、痛い。
俺が一体、何をしたって言うんですか。
呆然とした俺を取り残して、3限始業のチャイムが鳴り響いた。
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